吉川克彦准教授、多国籍企業のグローバルな人材活用に関する研究論文を発表

吉川克彦准教授、多国籍企業のグローバルな人材活用に関する研究論文を発表

吉川克彦(大学院大学至善館 准教授兼副学長)は、このたび、組織マネジメントの世界トップクラスの研究誌の一つ、Organization Studiesに論文を発表しました。

吉川准教授がHyun-Jung Lee博士(London School of Economics and Political Science、英国)、Anne-Wil Harzing教授(Middlesex University Business School、英国)らと共同で行ったこの研究では、多国籍企業が海外拠点の幹部として自国人材を赴任者としてアサインする人事慣行が、時に「自国中心主義」と批判されるにも関わらず、なぜ特定の国(例えば日本、韓国、フランスなど)において続いてきたのかについて研究しました。この研究からは、これらの国出身の多国籍企業が、母国の「自国人材を優先する」文化的傾向のために、人材のグローバル化を「したがらない」だけでなく、母国における英語力の低さや長期雇用が本社と子会社のコミュニケーションの障害となるため、人材のグローバル化を「できない」ことが示唆されました。

「日本の多国籍企業が海外子会社に多くの日本人マネージャーを配置することは、よく『自国中心主義的』だ、として批判されます。ですが、私の頭の中にはずっと、本当に『自国中心主義』だけがこの人事慣行の理由なのか、という疑問がありました。確かに日本社会には民族中心主義的な傾向があるけれども、日本企業の人事慣行の背景にはそれ以外の、よりビジネスに根ざした理由があるはずだと直感していたのです。この研究は、この疑問に対する私なりの答えだと言えます。日本企業の本社の管理職は、長期雇用を通じて、その会社ならではの知識―いわば、社内だけで通じる常識―を身につけ、それを前提にコミュニケーションをするようになります。しかし、子会社の外国人管理職は必ずしもそうした知識を持ち合わせていない。また、日本では総じてビジネスパーソンの英語力が不足しているため、本社にいる多くの管理職が、子会社の外国人マネージャーと直接コミュニケーションをとることに大きな問題を抱えています。こうした理由のため、日本の多国籍企業は、海外拠点の重要なポジションに(現地の人材の代わりに)日本人を配置することで、本社と子会社のコミュニケーションを促進せざるをえないのではないか。我々の分析結果からは、こうした制約が、日本文化における「自国中心主義」的な気質と少なくとも同じくらいに、大きな影響を持っていることが示され、また、同じ説明が韓国やフランスなどの他国の多国籍企業にも当てはまることが示されました。」吉川准教授は、研究についてこのように語りました。

「本研究結果の、日本企業の経営リーダーにとっての示唆は、仮に海外拠点の人材のグローバル化を進めたければ、逆に、本社の変革を進めなければならなない、ということです。もちろん、海外拠点の外国人マネージャーを育成することは重要です。そこに疑問はありません。しかし、同じくらい大事なのは、本社を「国際化」し、本社の管理職の「国境を越えたコミュニケーション能力」を向上させるということです。言い換えれば、彼らを、「日本人同士の間で深く共有された『当たり前』を前提にした、日本語でのコミュニケーション」というコンフォートゾーンから一歩踏み出すように促さなければなりません。具体的には、海外の人材を本社に逆赴任する、英語を社内公用語化する、などが考えられるでしょう」。

本研究論文に関する文献情報:

Lee H-J, Yoshikawa K, Harzing A-W. Cultures and Institutions: Dispositional and contextual explanations for country-of-origin effects in MNC “ethnocentric” staffing practices. Organization Studies. March 2021. doi:10.1177/01708406211006247

本研究論文に関するお問い合わせ先:

吉川克彦

准教授 兼 副学長 大学院大学至善館

Email: katsuhiko.yoshikawa@shizenkan.ac.jp